【イベントレポート】#おたがいハマセミナー 「地域循環型経済で実現する脱炭素社会」
- On 2021年10月27日
- #おたがいハマ, Circular Yokohama, NPO法人横浜コミュニティデザイン・ラボ, NPO法人横浜コミュニティデザインラボ, YOKOHAMAリビングラボサポートオフィス, アジア, オープンイノベーション, サーキュラーエコノミー, サーキュラーエコノミーPLUS, サステナビリティ, まちづくり, リビングラボ, 一般社団法人YOKOHAMAリビングラボサポートオフィス, 公民連携, 共創, 再生可能エネルギー, 地域活性化, 地方活性化, 地産地消, 廃棄物削減, 循環型社会, 循環型経済, 日本, 栄区, 横浜, 横浜市, 神奈川, 里海イニシアティブ, 金沢区, 関東, 青葉区
一般社団法人YOKOHAMAリビングラボサポートオフィスでは2021年8月2日、オンラインにて「#おたがいハマセミナー 『地域循環型経済で実現する脱炭素社会』」を開催しました。本記事では、当日の模様をダイジェストにてお届けします。
※ 本フォーラムは、一般社団法人YOKOHAMAリビングラボサポートオフィスが、NPO法人横浜コミュニティデザイン・ラボ、横浜市との3者協定により2020年5月から展開している「おたがいハマ」プロジェクト「おたがいハマ セミナー」の一環です。
プログラム
1)基調提言
▼世界のサーキュラーエコノミーと横浜のサーキュラーエコノミー
・加藤 佑(ハーチ株式会社 代表取締役)
2)市内各地の取り組み事例の報告
▼資源リサイクルの観点から
・髙橋 義和(横浜環境保全株式会社 代表取締役)
・栗原 清剛(横浜市資源リサイクル事業協同組合 理事長)
▼新しい農業・水産業の事興し
・三村周平(一般社団法人 横浜資産研究開発機構 オリーブ栽培担当)
・富本 龍徳(一般社団法人里山イニシアティブ 理事)
▼教育の分野から
・池島祥文(横浜市立大学大学院国際社会科学研究院 准教授)
▼循環型共生社会に向けた農福商連携
・「助け合いシェアご飯プロジェクト」(青葉区)の取り組みから
・「SDGs横浜金澤リビングラボ」(金沢区)の取り組みから
・「瀬谷養蜂リビングラボ」(瀬谷区)の取り組みから
・「さかえリビングラボ」(栄区)の取り組みから
世界のサーキュラーエコノミーと横浜のサーキュラーエコノミー
セミナーの前半は、ハーチ株式会社 代表取締役の加藤佑さんの基調提言です。
ハーチ株式会社では、横浜のサーキュラーエコノミーを推進するプラットフォームCircular Yokohamaや、国内外のサーキュラーエコノミーに関する情報を発信するCircular Economy Hubを展開しています。
今回は、加藤さんに「世界のサーキュラーエコノミーと横浜のサーキュラーエコノミー」をテーマに、循環型社会の現状についてご説明いただきました。
地球温暖化や環境汚染といった社会課題が取り沙汰されて以降、地球の持続可能性を確保するために様々な取り組みが模索されています。そして、近年その解決策の一つとして世界から注目を集めているのが、「サーキュラーエコノミー」です。
加藤さん:サーキュラーエコノミーでは、モノを製造する段階で、使用後の再資源化を見越してデザインや生産の工夫を組み込みます。それによって廃棄や汚染を出さない産業のモデルを構築するのです。
欧州では既に30を超える都市が「サーキュラーシティ宣言」を表明し、都市のサーキュラー化を進めているといいます。
加藤さん:同宣言では、人々のウェルビーイング(幸福)の改善、CO2排出の削減、生物多様性の保全・回復、社会的構成の促進を目指して街づくりを表明しています。モノの循環だけではなく、貧困や格差、人々の幸福といった「ひと」の部分にもアプローチしていく流れが新たに生み出されているところが特徴です。
ヨーロッパの都市では実際に次のような循環型の取り組みが行われているといい、特にイギリス ARUP社による、「Urban Bio Loop(アーバン・バイオ・ループ)」は特徴的です。
加藤さん:「Urban Bio Loop」は、生物資源(食品残さ)を、建築資材として使えないかと模索する取り組みです。例えば、建物の外壁に反射する太陽光を利用して、外壁に藻を繁殖します。そして、繁殖した藻を集めて焼却すると熱エネルギーが発生するため、それを回収することでエネルギーを確保できます。「農業×建築」のような異業種の掛け合わせはこれまでなかなか実現してきませんでしたが、サーキュラーエコノミー化の流れにおいては、他業種・他分野の協働が、次々と生まれています。
続いて、脱炭素とサーキュラーエコノミーの関わりについてです。
加藤さん:「脱炭素」と聞くと再生可能エネルギー(以下、再エネ)のイメージが強いかもしれません。しかし、再エネへの移行だけでは、炭素排出量は55%しか削減できません。廃棄物が出る限りそれらを燃やし続けなければならず、炭素も排出され続けます。つまり、根本的に廃棄物が発生しない経済循環の仕組みを作らない限り、ゼロカーボンの実現はないということです。
また、再エネへの移行を加速せる動きとして、太陽光パネルの需要が高まっています。
加藤さん:太陽光パネルは一次資源である中国の石炭を使って大量生産されています。そのため、大量生産によって値段は下がっていますが、生産に必要なエネルギーの問題や、使い終わったパネルの廃棄、リサイクルの方法までは、きちんと検討されていません。太陽光パネルを導入すると同時に、使い終わったパネルから廃棄が出ないようにするにはどうすべきなのか。これは、待ったなしの課題です。
さて。横浜におけるサーキュラーエコノミーの現状はどうでしょうか。
横浜市では、サーキュラーエコノミーPlusを独自の概念として掲げ、取り組みを進めています。
加藤さん:サーキュラーエコノミーへの移行のそのさきにあるのは、横浜に暮らす人々の幸福の実現です。モノの生産を考えるだけではなく、人の幸せにも繋がる経済システムを作ることが、サーキュラーエコノミーPlusの目標です。
横浜市内でも、サーキュラーエコノミーPlusの実現に向けた様々な取り組みが始まっています。
加藤さん:横浜市内には、既にユニークでサーキュラーなプロジェクトが数多く存在しています。Circular Yokohamaでは引き続き、これらひとつひとつの活動を一元化し光を当てることで、取り組む人々に経済的な恩恵が行き渡るようサポートするとともに、社会全体の脱炭素や人々の幸福の実現を目指して参ります。
横浜市内各地での取り組みの事例報告
横浜市内で活動する企業やリビングラボから、サーキュラーエコノミーに関わる活動の現況についてご報告いただきました。
資源リサイクルの観点から
まず初めに、横浜環境保全株式会社 代表取締役 髙橋 義和さんです。
横浜環境保全株式会社は、1972年から横浜市内の資源の回収や運搬事業に従事してきた企業です。
高橋さん:我々は「横浜市最初のゴミ屋さん」として、情報発信を強化し地域とのつながりを作っていくことを目指しています。事業全体を環境保全活動と位置付けて、市内で排出される廃棄物を有機肥料に変えるリサイクル事業をはじめとする、循環型の取り組みを進めています。
同社は、金沢区鳥浜町に堆肥工場をもっており、リサイクルの取り組みはそこで行われています。
高橋さん:有機肥料となる廃棄物は、横浜市内の飲食店やコンビニなどの小売業から出る事業系一般廃棄物と、工場から出る産業廃棄物です。収集したそれらの廃棄物を粉砕し、生ゴミとプラスチックにわけます。そして、そのうち生ゴミを発酵させて、有機肥料に変えています。
また、食品残さは乾燥させ、押しかため、そして固形化することで、化石燃料の代替品として燃料化することもできるといいます。
具体的なプロジェクトとして、食の循環プロジェクト「FOOD LOOP」に参加しているそう。
高橋さん:「FOOD LOOP」では、横浜市内のブルワリーから出るビール粕やレストランから出る食品残さを有機肥料に変えて、その堆肥を神奈川県同志村にて野菜栽培に使います。そして、同志村で収穫した野菜を、再び横浜市内のブルワリーのレストランで提供する、循環です。
横浜環境保全株式会社のリサイクル有機肥料は、「ハマのありが堆肥」として神奈川県リサイクル製品認定を受けており、横浜市内各地の事業所にて販売されています。
続いて、横浜市資源リサイクル事業協同組合 理事長 栗原 清剛さんです。
栗原さん:横浜市資源リサイクル事業協同組合は、横浜市内のリサイクル事業者96社が参加している民間の協同組合、団体です。目指す街の姿として、「リサイクルデザインタウン」を掲げて活動しています。
栗原さん:現在は、2030年に向けた中期的目標として、特に社会貢献ビジネスに力を入れています。企業倫理や法令遵守を軸に置きながらSDGsの達成にもアプローチする取り組みです。資源ロスをなくすとともに、人々が年齢性別関係なくいつまでも働けき続けられる業界にしていきたいと思っています。
栗原さんは、同団体の具体的取り組みとして、「環境絵日記」についてご紹介くださいました。
栗原さん:環境絵日記は、子どもたちが環境問題や環境保全について考え、絵と文章を組み合わせて自由に表現するプロジェクトです。2019年度には、15,000作品の応募がありました。これは、市内の小学生の10%が応募しているのと同じ数にあたります。
SDGs教育の流れもあり、最近では環境保全の他にも差別や人権といった社会課題に広くアプローチするアイデアも増えているそうです。
栗原さん:組合では、「環境絵日記で子どもたちが寄せてくれた貴重なアイデアを実際に実現したい」という思いから動き出した取り組みがあります。それが、「横浜リユースビンプロジェクト」です。オリジナルデザインのビンに、神奈川県産の果物で作られたジュースを入れて、市内の飲食店に販売しています。空になったビンを廃棄せずに回収する仕組みを整えることで、ビンの廃棄を削減しています。同時に、地産地消食材を使うことで、食の循環にも貢献しています。
2020年には、「」のプロジェクトがスタートしたといいます。
栗原さん:小児がんを患っているお子さんたちがレモネードを作る取り組みがあるのですが、彼ら自身で販売まで行うのが難しいという課題がありました。そこで、レモネードをリユースビンに入れ、我々組合が代わりに売ることで、その売り上げを子どもたちに寄付するという活動をスタートしました。
横浜市資源リサイクル事業協同組合では、引き続き地域循環を加速させる取り組みに力を入れていきたいとのことです。
新しい農業・水産業の事興し
次に、一般社団法人 横浜資産研究開発機構 オリーブ栽培担当 三村周平さんです。
三村さん:2018年より、緑区と旭区を中心とする全13地区で、686本のオリーブの木を植樹をしています。耕作面積にすると、1万7500平米を誇ります。
2020年度には、158キロのオリーブの実を収穫し、100ミリリットルビンに39本分のオリーブオイルの商品サンプルを生産することができたといいます。
三村さん:元々は、耕作放棄地や休耕農地の活用が目的でした。これまで横浜ではオリーブの栽培実績がなかったため、土地を利活用するための新しい取り組みとしてスタートしました。
オリーブの栽培には、13地区それぞれの耕地の状態に合わせた肥料が必要だといいます。そこで、横浜市内の公園緑地や街路樹などの剪定枝や刈草を原料とする堆肥「はまっ子ユーキ」を使用し、適切な土壌の確保に取り組んでいるそうです。
三村さん:収穫したオリーブを使った横浜の名産品を作ろう、というアイデアも持ち上がっています。市内の農家さんたちが同じ目標に向かって取り組むことで新しい目的意識を手に入れ、団結し始めていることを感じています。横浜オリーブの栽培が地域おこしの良い例となっていくことを願っています。
続いて、一般社団法人 里山イニシアティブ 理事 富本龍徳さんです。
富本さん:一般社団法人 里山イニシアティブは、2016年から金沢区にてこんぶの養殖を行なっています。こんぶは地味なイメージを持たれがちですが、こんぶが温暖化対策の一環として地球を救う可能性を秘めていると感じ、活動を始めてから5年が経ちます。
同団体は、30代〜70代までのメンバーが集って活動しているそうです。
富本さん:海の中は本来海藻で生い茂っているはずですが、海水の温度が上がり環境が変化しているため、海が自力でこれまでの環境を維持していくことができない、という状況が全国的に広がっています。
その一方で、海の環境を救うための「ブルーカーボン」の取り組みも少しずつ普及しているといいます。
富本さん:こんぶは陸上でも養殖ができるほか、養豚の餌や化粧品にも使われるなど、その用途は多岐に渡ります。さらに、二酸化炭素の吸収量も杉の木の5倍と言われており、こんぶが海の環境にとっての救世主となることが期待されています。
最近では、変わった取り組みとして、東京都の浴場組合とのコラボレーションによる「こんぶ湯」のプロジェクトにも取り組んでいるそう。
富本さん:金沢区で育ったこんぶを東京の温泉に入れています。さらに、温泉で使い終わったこんぶは、和紙の原料にしたり海での魚の養殖の餌にしたりすることで廃棄を防ぐことはできないかと試行錯誤しているところです。
教育の視点から
次に、横浜市立大学大学院国際社会科学研究院 准教授 池島祥文さんより、横浜とサーキュラーエコノミーについてコメントをいただきました。
池島さん:「環境保全」と「社会の共生」の二つのトピックの親和性についてはこれまでにも様々な議論が買わされてきました。しかし、その二軸と「経済成長」が両立できないことが課題とされてきました。
サーキュラーエコノミーは、まさにそれら三つの軸を両立させることができる可能性を持った新しい概念です。
池島さん:横浜は市民の主体性が高く、経済を地産地消で回せるだけの資源も整っています。これまでの誰が作ったかわからない製品を消費して満足する時代は終わり、これからは顔の見える関係の中で経済を回す流れが主流になると感じています。横浜では、経済活動に地域の人々が関わることができる余地もありますので、地域循環の活発化を期待しています。
循環型共生社会に向けた農福商連携
最後に、市内各地のリビングラボから、最新の活動報告をいただきました。
青葉区「助け合いシェアご飯プロジェクト」
「助け合いシェアご飯プロジェクト」は、青葉区藤が丘で展開している、食を通じた見守り活動です。
青葉区では、障がいを持つ人とその家族の自律的な生活をどのように維持するかが地域課題であるといいます。特に、地域や近所に助けを求めづらいことが、障がいを持つ人とその家族にとっての悩みだそうです。さらに、コロナ禍で人と接することが憚られるため、障がいを抱える人々の孤立が心配されていました。
そこで、それらの人々の元にお弁当を届けるプロジェクトを発足。お弁当を届けることを理由づけとし、週に一回でも外の人と接触できる機会を提供しています。
地道な活動を経て、最近では、各家庭が抱えている課題や悩みが少しずつ共有されるようになってきたということです。
金沢区「SDGs横浜金澤リビングラボ」
金沢区に位置する横浜市立瀬ヶ崎小学校では、子どもたちの総合的な学習の時間を活用し、同区の地域産品「金澤八味」の開発のプロジェクトを進めてきました。今年度は、金澤八味の取り組みをさらに発展させてできることを模索しているといいます。
そこで、児童たちから新たなアイデアが生まれました。昨今の地域、ひいては社会の課題でもあるのが新型コロナウイルスへの対応であることに目を向けた児童たちは、「コロナ禍への対応として自分たちが徹底すべきことは手洗いではないか」と考えたそうです。そして現在、給食の廃油から石鹸をつくる取り組みを進めているということです。
栄区「さかえリビングラボ」
栄区ではNPO法人を立ち上げ、高齢者や障がい者を包括するインクルーシブな農福連携を進めています。
まちを良くするためには、これまで自分が興味を持って取り組んできたことを深掘りすると同時に、これまで自分の興味関心がなかったことに触れることで、自分の新たな価値観や興味に気づいていくことも重要な要素となります。
そこで、特に高齢者の方々から「新しく農業に関わってみたい」という希望が聞こえるようになり、農福連携が始まったといいます。
すでに2年間続いている栄区の取り組みの特徴は、ボランティアではなく就職という形で畑での活動に関わることができる点です。この仕組みによって、高齢者や障がいのある方々の自立を後押しすることを目指しているそうです。
総括
プログラムの終わりに、横浜市内で循環型の取り組みに関わっている企業や市会議員などのステークホルダーから挨拶をいただき、プログラムは終了しました。
一般社団法人YOKOHAMAリビングラボサポートオフィスでは、今後も横浜市内各地の取り組みを支援・推進するとともに、それらの活動をやその成果を広く発信して参ります。