
World Living Lab Day 3(後編):ゴミの有効活用で、都市農業の持続可能性にチャレンジし、横浜に相応しい循環型経済を編む~よこはまオリーブで紡ぐ横浜郊外のサーキュラーエコノミーplus~【イベントレポート】
- On 2021年2月9日
- テクノロジー, まちづくり, リビングラボ, 分散化, 地域循環, 地域活性化, 地域経済, 横浜, 福祉, 飲食店
2020年11月2日(月)〜8日(日)に開催された「World Living Lab~レジリエントで持続可能な都市・横浜を目指して~対話とワークショップでポストコロナの循環型経済を切り開く7日間~」。今回のワールドリビングラボでは、「サーキュラーエコノミーplus」の4つの活動領域に沿って、新型コロナウィルスがもたらした社会課題に対する新たなソリューション創出や、様々な危機に対する大都市のレジリエンスを高めていくため、横浜市内各地のリビングラボが基軸となり、7日間にわたり8つの国際的な対話のプログラムを開催しました。
本記事では、3日目の2020年11月4日に開催された「ゴミの有効活用で、都市農業の持続可能性にチャレンジし、横浜に相応しい循環型経済を編む~よこはまオリーブで紡ぐ横浜郊外のサーキュラーエコノミーplus」のレポートをお届けします。前編では、オリーブ栽培の現状を知るフィールドワークを紹介しました。後編では、青葉区三丁目カフェにて「”助け合いシェアごはん”フューチャーセッション~農・福・商連携の可能性を探る」をテーマに意見交換を行いました。
ここでは、青葉区の藤が丘を中心に展開されている、全国的にも珍しい農・福・商連携による食を中心とした地産地消と地域のセーフティネット構築の取り組みである「たすけあいシェアご飯」をいかに持続可能なものにし、他の地域へと広げて行くかを話し合うフューチャーセッションの様子をご紹介します。
NPO法人横浜コミュニティデザイン・ラボ 代表理事 杉浦裕樹さんよりご挨拶
「本日は食というキーワードで旅をしていろんな方と対話をしました。サーキュラーエコノミープラスを掲げて、地域のものが循環していく、地域で価値のあるものが活かされる街にしていくことを切り口に企画しました。その一つとして青葉区の取り組みに注目しており、このような活動が広がっていくことを期待しています。」
前週の火曜日に続いて第2回目の開催となる「助け合いシェアご飯のフューチャーセッション」。発起人である、青葉区の藤が丘でイタリアレストランと惣菜店を運営している植木さんからシェアご飯についてご説明いただきました。
助け合いシェアご飯の紹介
「コロナ禍で学校給食が提供されなくなったときや夏休みの間は食費が増え、特に貧困世帯(母子家庭など)は貧窮してしまいます。ある日、地域の福祉活動に従事されていた上野さんに、高所得世帯が多いといわれている青葉区でもその課題はあるのではと相談されました。話し合った結果、『ごち飯』というサイトで寄付を集め、その寄付金でお弁当を作り、困っている人に届ける活動を始めました。最初は食事の支援だけを考えていたのですが、活動をするなかで、子供とずっと一緒にいるため、ストレスや問題を抱えていたり、悩み事を誰にも相談できないという課題も知ることができました。ちょっと立ち話をするだけでもガス抜きができ、悩みに応じて行政支援を紹介するなど、お弁当を届けるだけではなく、そこでお話しする時間も作っています。」
お弁当を持たずに手ぶらで訪問すると、監視されているように感じてしまいますが、お弁当というツールがあるとお互い気楽にかかわることができ、自然な形で見守り活動ができると植木さんはいいます。この取り組みはまだ青葉区に限られているため、他の地域でも持続的に広げていきたいと今回のフューチャーセッションが開催されました。
植木さんと一緒に活動に「助け合いシェアご飯」に従事する上野吉子さんからもお話いただきました。
「ただお弁当を届けるのではなく、お話をするために訪問しています。私は、人間はだれかと話すのがとても重要だと感じており、地域のいろいろな方に協力してもらいながら活動を続けています。」
今回のフューチャーセッションにはお弁当を実際に届けている方や、生活支援コーディネーターの方、NPO法人の方、社会福祉法人の方、秋田県湯沢市の湯沢リビングラボの方などが参加されました。それぞれの現場で抱えている地域課題の解決策や、機会創出のきっかけになるのではとの思いで集いました。
第1回目のワークショップの結果を共有
10月27日に行われた第1回のフューチャーセッションで話し合った結果を、あおば地域活動ホームすてっぷの小柳直晴さんから共有していただきました。
「様々なエリアで助け合いシェアご飯を持続可能な取り組みにするにはどうすればいいか話し合いました。ビジネスの観点からは、食材やお弁当箱、配達のガソリン代などを支援するための費用が不可欠であるとし、寄付などを通じて支援者が負担を出さずに食支援できる仕組みが必要と上がっていました。また、福祉の観点では、障がい者サービス事務所と連携し、野菜の提供や送迎者の活用など、社会福祉協議会などと協力することでボランティアや寄付を確保や活用ができるという意見が出ていました。
そして活動を広げていくために、地域と商店、福祉の協働を促すネットワークを地域で協力して構築する必要があります。お弁当の提供者や受け取る側が明確化されることによって、支援してくれているお店で買い物することにつながるなど、恩返しが循環型経済につながることが理想だと話していました。このような取り組みが広がることで地域連携や循環型経済につながると考えています。そして最後にリスクの観点では、協力者へ体力的な負担や、なにかあった時の保障や対応、コスト面などの対策を考慮し、継続するメリットや意識の醸成が必要だという意見もでました。」
グリーンさんからの提案紹介
次に、障がい者のかたと農作業をしてドライフルーツにし、販売を手掛けている社会福祉法人グリーンの長谷川さんから前回のフューチャーセッション後に考えた提案を紹介していただきました。長谷川さん本人も母子家庭だったため、今回のシェアご飯の活動に積極的に参加していきたいと意気込みとともに話されました。
「私たちが育てているお野菜の提供をしたいと考えています。ただ、作り手の原価や、廃棄予定の野菜を処理するには手間がかかってしまう懸念点もありますので、作り手と受け取り手の意見を検討しながら進めていきたいです。また、お弁当は手渡ししやすいのですが、栄養豊富でおなかも満たされる鍋料理などといった料理もいずれ提供できると良いと思いました。」
また、作っている人、届けることができる人、そしてお弁当が欲しい人がマッチングできるプラットフォームがあると良いとアイデアを伝えました。
「例えばスーパーがお昼に作ったお弁当の売れ残りを夕方に集めて、お弁当を届けてほしい人をマッチングしていきます。横のコミュニケーションが重要だととらえているため、一方的に届けるだけではなく、必要としている人とのマッチングができれば効率的に、必要な時に必要な人に届けられる仕組みになるのではないでしょうか。」
植木さんも長谷川さんの具体的な提案を受け、現場にいないとわからない提案があると感じたと意見を述べました。
「私たちシェアご飯のコンセプトはビジネスではないため、お金儲けは考えていません。なぜなら、ビジネスは資金が途切れたらお金をもらえないからという理由で辞めてしまう人が増え、取り組みが続かなくなってしまうからです。ですので、私たちは行政では行き届かない部分を地域で解決する仕組みづくりに注力しています。養護施設の若者や施設にいる人も含め、お弁当を作れる人や届けることができる人や、何かしらの形で貢献したい人が参加してほしいと考えています。そうして世代間の双方向へ恩送りしてもらうには、自分ごととして考えられる仕組みが必要になります。老後もお金に心配することなく双方向に助け合い、資源を循環できる社会になるような仕組みを社会実験的にしていきたいと考えています。」
金儲けでもなく、お仕着せでなく、施してもない、参加型の地域福祉の構築が植木さんの目指す社会の在り方です。
お弁当やお惣菜、パンの廃棄はどの地域にも存在しています。例えば廃棄予定でまだ食べることができる食品を提供することで、会社の社会貢献としても打ち出しながら貢献することができると植木さんは考えています。一人一人がハッピーで持続可能な仕組みをどう作っていくかが重要だと強調しました。
具現化に向けた参加者との対話
長谷川さんの提案や植木さんの想いを聞き、参加者のみなさんからは様々な意見が飛び交いました。
「孤食の若者が孤食のお年寄りの家にお弁当を持ち寄り、一緒に食べて繋がりが作れると良いなと思いました。介護保険のビジネスとして地域の孤立している人を介護していく活動とどう連携させるかを考えたいです。」
「困っている高齢者へつなげる役割がすごく重要だと思います。利用者がまだ知らない知人へシェアご飯を紹介することで、活動を支援することができます。活動に協力して見返りを求めるのではなく、できる人がやり、必要な人はもらうような仕組みの共有が理想です。」
「外に出たくない人や隣近所と付き合いをしていない人もなかにはいるので、助け合いの輪が広がるような取り組みを呼び掛けられる仕組みを考えたいと思います。」
「青葉区役所で月曜日と金曜日のお昼にお弁当を販売しています。当事者にとっても刺激が重要になるため、例えば歌付き弁当という、歌いたい人がお弁当と共に自身の歌をプレゼントする形で届けるお弁当など、様々なアイデアが出ています。」
「人と関わりたい、コミュニケーションをとりたいが場を提供できていないことも課題に感じています。それらの解決策を考える中でも、個性に合わせた形で参加していただくことが大切ではないでしょうか。」
「ただ届ければ良いというわけではなく、今まで築いてきた関係性や地域性、そして技術があって初めて届きます。新たにお弁当を届ける仕組みを作りたいと考えている人どうすれば良いかわからないことが課題になっています。届けられないから届けなくて良いということではなく、裾野からコツコツ取り組むことで地域にあった形で少しずつ活動を進めていくことできると捉え、活動を続けることが大切だと思います。」
まとめ
堀崎議員から全体の内容を総括していただきました。
「様々な意見がでましたので簡潔にまとめます。ビジネスにしてしまうとお金がもらえない場合に取り組みが続かなくなり、思いがしっかりしてないとやらされている感じになってしまうということが課題に上がっていました。また、関係者の役割や意味が循環していることがポイントという話もあり、例えば歌いたい人の歌をお弁当を受け取るついでに『聞いてあげる』という役割が与えられ、一方的な支援される側とは感じなくなる仕組みができます。人は誰かに頼ってもらうと少し気が楽になるため、支援されてばかりでなく、少し支援することで心が楽になるという意見もありました。」
誰かを応援することや、自分もなにかしらの役割を持つということ自体に意味があります。お弁当を受け取り食べることだけでも、地産地消で地元の農家さんの支援につながっていたり、あるいは食品ロス削減に貢献していたりと誰かの役に立っています。これらの大きなサイクルのなかにいることに意味があるのではないでしょうか。
「他にも、地域のなかでも小さな単位で区切っていきながら、ITも組み込み地域間で情報やノウハウを共有することで、廃棄予定の食材も協力して収集することができるようになる意見もポイントだと感じました。大きな塊として食品ロスを集めて、小さな単位で分配することが効果的な仕組みかもしれません。」
まとめを聞いたうえで、秋田県の湯沢リビングラボから会場にお越しいただいた佐藤愛子さんから、参加された感想をいただきました。
「脳性麻痺を患う弟や発達障害の子供がいるので、守らなきゃいけないという意識のもと勉強しています。自分は明日死ぬかもしれない、そしていずれ親も自分もいなくなってしまうなか、自分の近所の人も知らない人が増えてきているので、本日のみなさまの意見を聞き、市や医療関係との連携が必要だとより一層思いました。」
最後に植木さんから締めくくりの言葉をいただきました。
「寄付を募って、お弁当を作り、届けに行く仕組みをまずは継続させたいと考えています。例えば先ほども話題にあがったような、歌いたい人がお弁当を届け、家に通い続けることでお互いが顔見知りになり、一緒にご飯を食べてお話しができるといった居場所ができるようマッチングする形が理想的です。確かに個人情報や交流の仕方は法律の観点でグレーな部分もありますが、それでもやりたいという思いを持つ人が、まずは動くことが大切だと思います。やらないほうが困る人が多いのではないでしょうか。我々の理念を共有しながら協力者を増やし、活動を続けていけたいです。」
今後も活動を続けるために、クラウドファンディングなどを通じて寄付を募りつつ、引き続き対話しながら進めていきたいと植木さんは話しました。
取材後期
今回は様々な地域の現場で活躍する人が集まり、それぞれの観点から意見を伺うことができました。自身の地域でも同じような取り組みを始めたい方や、すでに取り組んでいる青葉区と協力したい方など目的は様々です。しかし、みな一貫しているのは、現場の課題を理解していて、それらを解決しようという想いを持っていること。現場の声が理解しているからこそ、それらを解決するには協働する必要性があると感じており、より多くの関係者を巻き込み、自然とお互いの課題解決をしていく理想的な形で仕組みが出来上がっていく予感がしました。まだこの取り組みは始まったばかりなので、今後も議論を重ねながら、少しずつ大きくなっていきます。興味があるかたは、できることが明確になっていなくとも、ぜひこの取り組みに参加してみてはいかがでしょうか。

YOKOHAMAリビングラボサポートオフィス 編集部
