World Living Lab Day 3(前編):ゴミの有効活用で、都市農業の持続可能性にチャレンジし、横浜に相応しい循環型経済を編む~よこはまオリーブで紡ぐ横浜郊外のサーキュラーエコノミーplus~【イベントレポート】
- On 2021年2月8日
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2020年11月2日(月)〜8日(日)に開催された「World Living Lab~レジリエントで持続可能な都市・横浜を目指して~対話とワークショップでポストコロナの循環型経済を切り開く7日間~」。今回のワールドリビングラボでは、「サーキュラーエコノミーplus」の4つの活動領域に沿って、新型コロナウィルスがもたらした社会課題に対する新たなソリューション創出や、様々な危機に対する大都市のレジリエンスを高めていくため、横浜市内各地のリビングラボが基軸となり、7日間にわたり8つの国際的な対話のプログラムを開催しました。
本記事では、3日目の2020年11月4日に開催された「廃棄海藻の有効活用で、都市農業の持続可能性にチャレンジし、横浜に相応しい循環型経済を編む~よこはまオリーブで紡ぐ横浜郊外のサーキュラーエコノミーplus」のレポートをお届けします。前編では横浜の南から北に上がり、現場の視察や対話を通じてアマモの利活用について考えます。
第1部「海岸に打ち上げられたアオサのたい肥化・肥料化を考える公開研究会」
まずは「海岸に打ち上げられたアオサのたい肥化・肥料化を考える公開研究会」と題して、横浜市金沢区の人工海浜である海の公園に大量に打ち上げられ焼却処分されているアオサの有機肥料化を目指し、アオサの現状などを伺いました。
座間 吉成さん(金沢臨海サービス 事業開発室室長)
金沢臨海サービスでは、アオサの漂着に対する事業を担っています。横浜市民にとって海は身近でありながらもなかなか守られていない現状です。海の公園は市民の憩いの場を形成することを目的とし、水際と海を利用したレクリエーションの場とすることや、多様なレクリエーション活動に応えられる場とすることを目標に整備されています。
まず初めに、アオサなどの海藻の特徴を教えていただきました。
「海の公園を表す3つの『ア』があります。それは『アサリ』、『アマモ』、『アオサ』です。この3つの『ア』は海辺に生息しており、リンや窒素、二酸化炭素を吸収しています。」
さらに、アサリには海水をきれいにする作用があり、1年間に東京湾の海を2度浄化します。また、アオサは1トンで1人が排出する二酸化炭素量の311日分を吸収し、アマモも海のミネラルや生態系を保護する役割を担っているのです。
そんな役割を持つアマモですが、現在過剰に繁殖してしまい、海水浴場で足がからまり、おぼれてしまう事件もあったのだそう。それらを防ぐべく、現在は人力で海をきれいにしています。
「アマモの回収作業は、人の手を使って回収し、砂浜で水分を落とし、焼却しています。この一連の作業は年間2000万ほどの費用がかかってしまっているのです。環境を守りながらも海の公園をレクリエーションの場としてどのように場所づくりするのかを検討しています。」
多額の費用を投資して廃棄されてきたアマモを活用できないかと、アマモの活用案がこれまでいくつも試されました。例えば、養鶏場の飼料、バイオプラスチックの原材料、青のりなどの原材料、バイオマス発電、そして環境学習の題材です。
これらの活用を通して、アマモ活用の事業化を目指していますが、いくつもの課題があるのです。アマモを活用する難しさの一つに、安定した供給が見込めない点があります。
「アマモが大量に繁殖するのは6月から9月の3か月程度のため、年間を通して安定供給が見込めずに事業化するのが難しく、さらにアマモは市の所有物なので勝手に流用できない現状があります。多くの方の協力を得て、いずれはアオサ・アマモのミネラルを畑にまき、炭素を土の中に埋め、ミネラル豊富な土からおいしい野菜を作るという、横浜のブランドにつながる循環が生まれればよいなと思っています。」
二酸化炭素を吸収するだけでなく、東京湾の水質浄化もするが、一方で増えすぎてしまうとレクリエーションの機能を喪失してしまう上、生態系を崩してしまう懸念があるため、どのように循環型するのかみなさんと共に考えていきたいと座間さんは話しました。
奥井 奈都美さん(アマンダリーナ)
「アマンダリ―ナでは、シーサイドファームのみかん農園で食べごろ8月の前に間引いたみかんを摘花した青蜜柑を加工してドレッシングを作っています。また、環境学習にも熱心な学校との連携にも注力しており、実際に金澤リビングラボで作った金澤八味を地元の農家や小学校と連携して環境教育として実践しています。」
アマモやアオサが廃棄されてしまうのがもったいないと思い、アオサを通年使っていくのにはどうすればいいのか、2~3年前から農家や専門家とともに横浜海藻研究会でワークショップを開き、その活用事例を考えていたそうです。
「私自身、横浜で地産地消の推進をする役割を担う『浜フードコンシェルジュ』として、開発した肥料を使って横浜の農業振興に役立てていきたいと考えています。海の公園発の海藻を使って、プレミアム野菜を作っていきたいという思いのもと、本日どのような話し合いができるか楽しみにしています。」
伊藤 幸男さん(横浜資産開発研究機構)
次に有機肥料の研究に長年取り組んでいる伊藤さんからのお話を伺いました。農家の農地をどう守るかを考えることから、オリーブ栽培に取り組み始めたそうです。
「現在は小豆島からオリーブの木を移植し、横浜の土に合うかどうかを確認している段階です。研究農場ではアオサやアマモの成分を活かせるのかを確認しているのと同時に、金沢区の畑の土の性質を調べ、いずれは横浜のオリーブ畑として発展できればと願っています。」
アマモやアオサも堆肥や肥料として使えることがわかっていますが、横浜の畑と一概に言っても地域によって土壌や土の性質が違います。そのため、各地域の土壌にあった肥料や堆肥を開発していく必要があり、専門機関との連携や農家とともに実験をしながらオリーブを栽培していくことを目指しています。
伊藤さんのお話されているオリーブ実験農地はこの後実際に足を運び、農家さんからもご意見や感想を伺います。
今村 美幸さん(SDGs横浜金澤リビングラボ)
今村さんはリビングラボの活動を3年前に始め、遊休農地の増加や地域の担い手不足が金沢区内の課題としてあるため、地域の事業者が地域を支援をすることで新しい経済圏を創造していこうと取り組んでいます。
「我々は、主に3つのことに取り組んでいます。1つ目は、『地域産品づくりによる地域観光まちづくり』として、地元の農家や企業が連携し地域おこしをしています。2つ目の『市民参加型による広域連携街づくり』では、金沢区の取り組みを三浦半島全域に広げることで循環型経済を構築したいと、いくつものセッションを開いています。そして『産官学連携による地方創生まちづくり』においては、本日のテーマであるアマモの利活用で地域循環を構築していこうと活動しています。」
本日リビングラボとして、農と食の分野で正式にサーキュラーエコノミープラスを実現していこうと今村さんは話しました。金沢区では、一社横浜市産研究開発機構(農法研究、地域ブランド商品開発)、金澤臨海サービス(海洋植物、緑の吸収)、横浜国立大学(経済効果の測定、SDGs教育)や横浜市など様々な関係者とともに地方創生を推進しています。
今村さんは、アマモの所有者である横浜市の協力を得ながら、横浜の愛されるブランドとして作り上げるべく取り組んでいきたいと意気込みを語りました。
宮口均さん(海の公園センター長)
海の公園の管理をされている宮口さんから、今回の場に関する感想や意見をいただきました。
「かつて横浜は漁業が盛んで、海水浴場がたくさんありました。しかし、街を開発するために埋め立てをし続けた結果、横浜市民にとって海に接することができる唯一の場所が海の公園だけになってしまいました。海の公園は、健康づくりのためのポテンシャルが高いと思うので、どのように活性化するかみなさんの知恵を貸していただけたら有難いです。そしてアマモに関しては、海のなかで重要な役割を果たしているにも関わらずいらないものと思われてしまうことが心苦しかったです。アオサやアマモに対立するような形で接しようとしている考えが多い中、本日は緑の海藻を活かしていこうと前向きに考えている姿勢にとてもうれしいです。海の公園からもこのような取り組みを発信していけたらいいと思います。」
第2部 「横浜金澤でオリーブの栽培は可能か?を考えるヒアリング」
次に、場所を移して金沢区釜利谷の永島農園へ移動しました。海の公園のアオサを活用し、肥料として横浜金澤の地でオリーブ栽培をすることが可能なのかを考えるヒアリングを行いました。
ここでは、永島農園の太一郎さんとオリーブの実験をしている横浜市産開発機構、いぶき野農場の三村周平さんとの対談の様子をお伝えします。
永島さんは婿入りし、永島農園を継ぎました。永島さんの代である2012年から、しいたけときくらげを収穫する農業を始めたそうです。おがくずブロック菌床栽培という方法でキノコを栽培しており、使い終わったらその菌床を崩して作る堆肥の中にアマモも組み合わせると良い堆肥になるのではないかと、実験場所として提供する意向を示しています。
横浜市産開発機構、いぶき野農場の三村周平さんは横浜で初となる果樹としてのオリーブの栽培に関わり、日々勉強することがとても多いと話しました。
三村さん「私はもともと保土ヶ谷区で農業をしていました。当時は露地野菜を育てていたのですが、収益性のある農業をしたいと考え、いちごの栽培を始めました。そうしたなか、いちごだけでは生活できず、魅力ある農業にあこがれていてたところ、オリーブの話を聞きオリーブ栽培に参画しました。」
永島さんは、農業を通じてより多くの子供や大人へ学びや気づきを与える機会を提供したと話しました。
永島さん「露地の畑は金沢区は生活者がいるエリアなので、1つの物を大量生産するのではなく、地域の人が最初にふれる農業としての役割を担いたいと考えています。実際に、社会科見学できのこを見てもらい、なにかしらの刺激を与えられるよう意識しています。他にも田んぼでの収穫体験や、金沢八味の唐辛子の収穫などと同じように、様々な体験が提供できるのであればひとまずやってみよう考えたのです。」
実験も子供たちと一緒に学びながら進め、若い世代に関心を持ってもらうことで地域の人たちと循環型農業を実践していきたいと強調しました。
最後に、永島さんから一言いただきました。
永島さん「今年は変化が多い年でしたが、作物や農業にかかわるのは人の成長にとって良い影響があると感じています。本業のきのこ農家を続けつつも、子どもの成長や教育につなげることはやっていきたいと思うので、皆さんと協力し、がんばって形にしていきたいです。」
故郷の環境を活かして新しいものを作っていくのは絶好の教育の機会になるため、今後の活躍に注目していきたいと永島さんは話しました。
第3部「よこはまオリーブ栽培現場視察」
第3部では、いままで話にあがっていた、横浜でオリーブの試験栽培をしている緑区いぶき野のオリーブ農場を視察しました。
農家の方からオリーブ栽培の取り組みをご紹介していただきながら、今後オリーブ栽培について考えていきます。
今回は、青葉区在住で2020年からオリーブ栽培実験にかかわっている関根さん、そして2019年から、しらとり台といぶき野でオリーブ栽培を開始している小林さん、いぶき野研究農場の農場長を務めている三村さんのお三方からお話を伺いました。
まず初めに小林さんへ、横浜でオリーブを育てようと思った動機を伺いました。
小林さん「農業の後継者問題などがあり、オリーブをはじめてみないかというお誘いがあり、2019年から始めました。今年で2年目に入りましたが、収穫もでき、オリーブオイルとして作れるようになったので、挑戦してみてよかったなと思っています。」
関根さんもオリーブが育てられるだけの畑を持っていたため、興味本位で実験的に苗木を植え育て始めたそうです。
1年目の成果を三村さんに伺いました。
三村さん「いぶき野の農場では、オリーブをやりたい農家さんを中心に果樹としてのオリーブ栽培を横浜で初めて実験的に取り組んでいます。オリーブ産地の小豆島の育て方が横浜で育つのかもわからないうえ、不可能だと考えられていたなかで始めました。今回、畑の土壌をいじるにあたり、青葉区しらとり台の畑で2019年には実が収穫できました。そして収穫できただけでなく、1本の木から8キロも収穫できるほど想定外の豊作でした。理由を解明するために土を掘ると、野焼きされた炭が土壌に入っていたことがわかりました。そこをヒントに、堆肥は有機でできるのではないかと思い、浜っ子有機の製作に従事していた方に協力をいただき、いぶき野農場では浜っ子有機を使って研究しています。」
実際にその有機堆肥を使った結果、1年目のしらとり台よりも豊作だったので、使い続ければ循環型農業ができるのではないかと少しずつ栽培方法がわかってきているのだそう。
横浜市産開発研究機構という中間支援組織があり、志のある農家が集まって一緒に研究しながら取り組める場になっています。個々の農家が機構に問い合わせて、わからないことを丁寧に対話しながら一緒にやっていく仕組みがあることが有難いと農家のお二人は話していました。
今後に関して、関根さんは植えた以上はそれなりに実ってほしいので、がんばっていきたいと意気込みを語りました。
小林さんも横浜でオリーブの収穫量が増えていけば、生産から加工までできるようになればと話しました。
小林さん「今は小豆島に送って加工していますが、いずれは横浜で加工場ができて地産地消ができるようになることが理想です。」
三村さんも、仲間が増えてほしいと続けました。
三村さん「オリーブの木以外にも畑や農業に関して農家の先輩たちからたくさん教わることがあるので、若い方も一緒になってオリーブ事業に取り組むことができたら嬉しいです。」
農家仲間や協力企業や団体を増やしていき、その土地にあった有機堆肥を見つけながら活用し、その土地にあったオリーブを作っていきたいとみなさん声を揃えて話していました。
オリーブが実際に収穫できるのかは今後2年ほどで実証でき、その成果をみてから、やりたい人はぜひ取り組んでほしいと話しました。
横浜の農業を考えたとき、次の世代を担う若い方の参加もあれば、最終的に横浜の循環型農業、地産地消につながっていきます。何かしらの形で協力したいと思っている方はぜひ、横浜市産開発研究機構へご連絡してみてはいかがでしょうか。
後編は、最後に行われた「”助け合いシェアごはん”フューチャーセッション~農・福・商連携の可能性を探る」についての様子をレポートします。
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